アストルチアの謎

ドラクエ10の設定、物語について語る、予定

【小説】奇跡の代償は 最終章『ふたりのチェス、そして。』


奇跡の代償は 17章『ふたりのチェス、そして。』

■概要
Version4のアフターストーリー、第17話。
舞台はV6.1終頃、クエスト『約束の帰郷』後の新エテーネ村。
異界滅神ジャゴヌバを斃し、平和が戻ってきた


■17章『ふたりのチェス、そして。』の登場人物
メレアーデ:エテーネ王国王族。王国代表。
少女:『盟友』の姉。新エテーネの村に帰還する。
ビャン・ダオ:ドルワーム王国研究員。

 メレアーデは、ひさしぶりに新エテーネの村にやってきていた。いそいそと、みずからの猫屋敷にむかう。いまは、平穏な時代であった。
 数万年来の女神や六種族の宿敵ともいうべき闇の根源、異界滅神ジャゴヌバも、『盟友』とその仲間たち、そして魔界をもふくめたアストルティアすべての人々の想いをあつめたミナデインの前についには討伐され、人々は魔の者におびやかされない真の平和というものをアストルティアの有史以来はじめて手に入れたのだった。
 メレアーデのエテーネにおける政務も一段落し、ようやくつかの間のバカンスというわけであった。
 猫屋敷の方にすすむと、なにやらおむかいの家がさわがしかった。トンカン、トンカンと簡単な増築工事をしているようだ。メレアーデの家の近くで牧畜をいとなんでいるソップに聞くと、ソップはうれしげに言った。
「ながらくこの村を離れていた『村長』のおねえさんが帰ってきたんだべさ!」
 そういって、祝いの『エテーネルスープ』をおすそ分けしてくれた。
『盟友』のおねえさん……。どんなひとか楽しみだわ)
 メレアーデはそのように思いつつ、ひさかたぶりにエテーネの別荘にはいった。留守をあずかっていたメイドのミュゼルが出迎えてくれ、メレアーデはねぎらいの言葉を彼女にかける。ミュゼルは心得たもので、ひととおりの挨拶をすませると、
「どうぞ、ごゆるりとおくつろぎくださいませ」
 といって、彼女はグランゼドーラ人であるにもかかわらず、完全無欠な『エテーネのあいさつ』を披露して外へ出ていった。
 そうしてメレアーデは久しぶりの猫たちとの逢瀬を楽しみつつ、おもった。
(……『おねえさん』にご挨拶へいった方がいいわよね。ご近所づきあい、だいじだものね)
 そうおもって、ワグミカから以前贈られたウィスキーの瓶をさがした。
 そこに、入り口の方からノックがあった。メレアーデは気軽にこたえる。
「はぁ~い、どうぞ~」
 ガチャリ、と。
 その少女は入ってきた。彼女は、南国風の露出度が高く、かつ錬金術師であることを思わせるような衣装をまとっていた。
「やあ、『はじめまして』。メレアーデさん」
 その少女はほがらかにあいさつした。
「は、じめまして……?」
 あれっと思って、メレアーデは少しいぶかしげに挨拶をかえした。
 すると奔流のように、かつてのふしぎな空間での記憶がよみがえってきた。
 一瞬頭をおさえたあと、少女をみなおす。
「あ、あなたは……」
 メレアーデは片手で口をおさえておどろく。
「……あら、思いだしてくれたかしら?メレアーデさん。よかったわ。また会うことができて」
 そういって、メレアーデと少女は再会の握手をかわした。
 奥の客間に、ふたりは腰かけて話した。おもに少女が『魔界』であったいろいろな出来事をかたった。『魔仙卿』としてながく魔界の権威として据わり、弱者たちの楽園『ジャディンの園』をまもってきたこと、ながい雌伏の末にやっと『きょうだい』との念願の再会をはたし『大魔王』に導いたこと、『大魔王』の人徳で仲間となった頼もしき『魔王』たち。アンルシアやルシェンダたち、さらには賢者マリーンたちとの邂逅。魔瘴におかされたあとの『大魔王城』での療養生活。そしてついには『闇の根源』との契約を破棄し、魔瘴の海を『海魔獣ブルラトス』でよびよせ、みなに最終決戦をたくしたこと。
「あとは、あなたと一緒ね。みんなでミナデインをささえて、とうとうあのジャゴヌバをやっつけた」
 そのような自分の長い戦いをかたりきった。んー、と少女は何かを思いだしたようにいう。
「そういえば、メレアーデさん。『大魔王城』での大宴会にいなかったわね。てっきり呼ばれてるかと思ってた」
「あ、はは、もちろん呼ばれれば行きたかったけど……、ただの人間には厳しい土地のようだしね」
 メレアーデはそういって苦笑する。魔瘴におおわれた彼の地に簡単にいける六種族などは勇者一行くらいだろう。
「……でも本当に、おつかれさま」
 この少女はようやく、自分の想像すらできない何千年もの放浪の末に、ようやくこの村にもどってこれた。とうとう報われたのだ。
「うん、……ありがとう、メレアーデさん」
 少女もそういってそのねぎらいの言葉をよろこんだ。

 その後、二人でチェスをしよう、という事になった。少女はウルベア帝国時代にクオードの手ほどきを受けていたというのだ。ちょうど、メレアーデがこの住まい用に用意していたチェスセットがあった。チェス盤を設置しながら、少女はメレアーデに当時のクオードのことを話す。
「あいつはさ、チェスやってるときは難しい顔をしながら『姉さんなら、こう考えるだろう』っていっつも言っててうるさかったわよ、本当に」
 目の前の人間のこと全然みてなかったわ、といって少女はケラケラと笑いながら駒を並べる。知らない時代の元気なクオードの話に顔をほころばせる。
 そのものいいは、親友というべきもので少女とクオードの親密さをうかがわせた。
(ウルベア帝国時代は十年を超えると聞いたわ。恋人……って感じでもないけど。どうだったのかしらね)
 とクオードの姉として少々勘ぐってしまう。
 ポーンをならべ終わり、試合が始まった。

 三時間の激闘のすえ勝ったのは、なんと少女であった。まじめにやった時にはクオードに一度もまけたことはなく、キィンベルのプロ棋士たちとも互角のたたかいをすると言われるメレアーデをくだしたのだ。
 そして、その打ち筋はクオードであった。クオードが何百年という研鑽を積んで、メレアーデのもとにあらわれた存在が、まさに目の前の少女であった。
(あ、あれっ……)
 涙。
 メレアーデのほおを、意図せず涙がつたっていった。
 いつもはにこやかに微笑みをたやさないメレアーデ。
 慰霊碑完成のとき、クオードの死を公表したときすらも流れなかった涙が。
 この現代におりたった時に涙をながして以来ひさしぶりに、なつかしきクオードを感じてついに涙を流したのだった。

 少女は、その様子をやさしく眺めていたが、ふとチェスの駒の違和感に気づいた。
(……え?これ、オリハルコンだ!)
 錬金術師なら一度は夢見る、賢者の石とならぶ到達点。
 そして長い時の放浪の旅で少女は知っていた。このチェスの駒は、禁呪法により血を捧げれば主人をまもる強力なオリハルコン製のゴーレムにへんげする。それは、ポーンやナイト、クイーンといった各駒の性能を模した超級のマジックアイテム。それがメレアーデの所有するチェスセットに入っていたのだ。
(リーネが見たら卒倒するわね。偶然?いやいや、そんなことはないわよね。……これは、あんたの仕業なの?)
 そう言ってメレアーデが持ってきている、机の片隅に置かれている試作型エテーネルキューブをみやる。エテーネルキューブは黙して語らない。
(いずれ、何かあるっていうのかしら。まあ、いまのところは黙っておこうじゃないの)

「……今日は、ありがとう」
 少女は、そう別れのあいさつをのべたあと、帰り際の玄関口であらたまってカバンから封筒をとりだしてきた。
「これを。渡しておかなければと思って。会ってきたの……」
 そういって、メレアーデにわたす。
 メレアーデはその封筒を手にとり、裏返して差出人をみる。
 そして固まった。
 そこには『ビャン・ダオ』と書かれていた。
 少女は「ひとりで読むものだと、思うから」と、そのようにいって去っていった。
(……)
 無言でペーパーナイフをつかって、その封をきってあける。
 メレアーデは、緊張しながらおそるおそる、その手紙を読みはじめた。

『メレアーデ殿。
 キィンベル、パドレア邸以来であるな。
 余をたずね、過去の謝罪を申し出てきた少女……ウルベア帝国筆頭研究員であったという、その少女にこの文をたくす。読んでたもれ。
 余は、あの後ガラクタ城にてめざめ、すべてを忘れてダストン殿の養子として、ポツコン一号とともに洞窟や遺跡にかよい、他愛もないガラクタをひろっては持ってかえり、地下室につみあげる毎日であった。それはおだやかでかわらぬ、なんにもならぬが、なんとも心地よい日々であった。余はこのまま、かわることなく一生を終えるのだろうと、そう思っていたのじゃ。
 しかし、そのような生活を何か月もしていたある日、そこにやってきたのは見もしらぬ少年王子であった。彼は余のことを皇子とよんだ。そして、帰ろうと。おかしなことをいうやつだと思った。余は皇子などではない。そして帰る場所こそがここではないか。たのもしき変人、父ダストンの家、ガラクタ城こそが余の唯一のいこいの我が家のはずだろう。変なやつだと余はうろんに思い、余は王子を拒絶した。ダストン殿……父も王子を追い返した。てひどく追い返しつづけた。
 そんなある日、余はガラクタ城の屋根の上にのぼって、ぼーっと星をながめておった。星も、余とおなじく意味のないことを日々続ける仲間じゃと思っておったので、晴れた夜の日には何時間もその星々をながめるのが余の趣味であった。父ダストンは『星はきれいだからダメですッ』といって星をガラクタの仲間だとはみとめておらなんだが……。そのように眺めていたところ、王子が反重力飛行装置にのって、上空から屋根の上にやってきたのじゃ。空から王子はいった。
「いこうよ、ビャン君。君には待っている人もたくさんいる。みんな、君のチカラを必要としているんだ」
 そういって、彼は手を差しのべてきた。
 余はそんなの嘘っぱちだというた。父ダストンこそが唯一余を必要としている者だというた。父は余を愛してくれている。それ以上に必要なものなどないと。そういうたのじゃ。
 王子は続けていうた。
「……君には、やろうとしていた事もあったはずだよ」
 そう言って、彼は優しい笑みを浮かべながら、球形の魔神機を取り出してきて余にわたしてきたのじゃ。
 その動かない球形の魔神機を余は胸にかかえ、その何も映さない黒い電光部をながめておった。
 確かに余はこれを大事に思っておったような気がした。しかし、どうしても思い出せなんだのじゃ。
 すると、あろうことか、その時黒い電光部にわずかに光がともり、その魔神機はゆっくりと余のことを呼んだのじゃ。
『ビ、ャ、ン、皇、子』
 と、そう呼んだ。その瞬間、余はすべてを思いだした。そしてさまざまな感情がうずまき、それに翻弄されるように泣いた。
 その魔神機……〇八号は再び沈黙した。余はなんどもさけんで呼びさまそうとしたが、二度と〇八号の目は光をともすことはなかった。
 あとで聞いたことじゃが、王子の学友のプクリポがこの〇八号を調べたところ、ガラクタ城の地下に眠っていた巨大飛行装置とつかっているエネルギー燃料が同じであることをつきとめたという。そして、その燃料はすでにほとんどゼロじゃったが、タンクにへばりついているような最後の燃料を採取して、〇八号にいれたというのじゃ。ともかくも、全てをおもいだした余は、王子……ラミザとともにドルワームに帰ることにしたのじゃ。〇八号を再びよびもどすために、そのエネルギーを探しに、余は各地の遺跡をまわらねばならぬ。ダストン殿は事情を知るや、顔もみずに『そうですか……、どこへでも行きやがれですッ!』といいすてて地下室に入っていった。余は不器用な、やさしき、まやかしの父をおもい、泣きながら旅立った。
 余はこのようにして、ドルワームに帰還したのじゃ。
 さて、私事がすぎたの。だが、なぜだかそちには余自身のそういった経緯を知っておいてほしいように思うたのじゃ。
 余はすべてを知ってしまった。そちの弟が仇敵グルヤンラシュであることを。
 しかし、あのときのようなはげしき憤怒は、今は余の体の中にはない。おそらくはダストン殿の不器用な愛がそれをあらいながしてくださったのじゃのう。
 ただし、余は金輪際エテーネ王国の敷居はまたがんじゃろう。そしてそちに会うことも決してない。これはけじめじゃ。すなわち余の意思がそちにとどくのもこの文が最後ということになろう。しかし、現代のドワーフたちとは関係なきこと。エテーネ王国は平和な、素晴らしい錬金技術を誇る国じゃ。ぜひドルワーム王国とは懇意にしてもらいたいと思うておる。
 そち達エテーネ王国人はかつての五〇〇〇年前の数々の惨禍からのがれ、この現代にやってきたときに、無念ながらも死してこの地を踏めなかったものたちのために立派な慰霊碑をたてたという。ねがわくば、そちや今回の件で事情をしるものたちだけでも、その慰霊碑にたいして、三〇〇〇年前にあわれにもほろびたドワーフの人々に対しても、自国民に対するものと同じ祈りをささげてやってたもれ。今の余の、それが唯一ののぞみじゃ。

 ドルワーム王国 王立研究院 調査研究員 ビャン・ダオ』


 その晩、メレアーデはただ泣いた。罪を犯した弟と、残されたドワーフのために。

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