アストルチアの謎

ドラクエ10の設定、物語について語る、予定

【小説】奇跡の代償は 12章『宴模様』


奇跡の代償は 12章『宴模様』

■概要
Version4のアフターストーリー、第12話。
舞台はV5.0終頃のエテーネ王国。
主人公は魔界で行方不明扱い。

■12章『宴模様』の登場人物
チョトス:パドレア邸付きの料理人。
ハーミィ:パドレア邸付きのメイド。
ウリム:パドレア邸付きのメイド長。
ヒュラナ:パドレア邸付きのメイド。
ホリス:エテーネ王国の錬金術師。
モリュブ:エテーネ王国の錬金術師。
グッディ:エテーネ王国の情報屋。
コンギス:エテーネ王国の錬金術師。
オードラン:アラハギーロの武官。
ゴーレック:ラッカランの島主、メダルオーナー。
バグド:グレン王。
グロスナー:ガートラント王。
オーディス:ヴェリナード王子。
ヒューザ:凄腕の冒険者、神の器。
フウラ:風使い、神の器。
ラグアス:メギストリス王子、神の器。
マイユ:凄腕の冒険者、神の器。
アンルシア:グランゼドーラ王国の勇者姫、神の器。
シンイ:エテーネ村の村人、盟友の幼馴染。
エステラ:竜族、ナドラガ教団の神官。
JB:「JB一味」のリーダー、レンジャー。
ダン:「JB一味」のメンバー、魔法使い。
かげろう:「JB一味」のメンバー、バトルマスター。
トーラ:「JB一味」のメンバー、盗賊。
ジャベリ参謀:エテーネ王国軍参謀。
セオドルト:エテーネ王国軍軍団長。
ビャン・ダオ:大昔のガテリア皇国皇子、ドルワーム研究員。
ラミザ:ドルワーム王国の王子。
ドゥラ:ドルワーム王国王立研究院院長。
ミラン:アラハギーロ王国の王太子。
メレアーデ:エテーネ王国の王族、王国代表。

 大きな拍手がわきおこった。いならぶ世界の大国の王や王子、姫君たち。彼らがみずからのサインした書類を次々と掲げたのだ。グランゼドーラの勇者姫アンルシア、ガートラント王グロスナー、グレン王バグド、カミハルムイ王ニコロイ、ヴェリナード王子オーディス、アラハギーロ王子ミラン、ドルワーム王子ラミザ、そして最後に、主催国であるエテーネ王国代表メレアーデ王女。
 アストルティアをみちびく王侯貴族、それを護衛する兵士長たち、著名な有力者、歴戦の冒険者。そういった名だたる者たちがこのパドレア邸の優美な庭園にて一堂に会していた。その調印式がつつがなく終わり、続けてこの開放的な庭園にて立食パーティがおこなわれることとなっていた。

 裏方のメイドたち、またパドレア邸の料理人のチョトスは目の回る忙しさであった。あまり食文化が豊かとはいえないエテーネ王国だったが、王族付の料理人であるチョトスの腕は確かであり、現代のアストルティアの料理も精力的に覚え、過去でつちかったエテーネの料理と現代の料理をそれぞれにつくって好みにあわせて食べられるようにしていた。
「……バランスパスタ四皿あがったよ、ローヌ風焼き肉の大皿もテーブルに持って行ってくれ」
 そういってチョトスはホカホカと香ばしい匂いたちのぼる皿を置いていく。
「ひぃ~、超いそがしいよぉ、チャコルの手も借りたい!」
 パドレア邸のメイドハーミィが、腕に料理の皿を山盛りかかえつつ目を回している。
「ハーミィ、おちつきなさい。エテーネ王族のメイドたるもの、スマートに……」
 メイド長ウリムがおだやかにしかる。そこにハーミィの先輩、ヒュラナとサリーダが、ハーミィの両横から持っている溢れんばかりの皿をいくつか引き取る。
「ありがとぉ……」
 ハーミィは先輩メイドたちを見あげて礼をいう。
「現代世界の王様や王子様がたがお待ちかねよ」
「メレアーデ様に恥をかかせないよう、みんなで頑張りましょうね」
 そういって熟練のメイドたちは後輩をはげまして、彼女らは洗練された動作で皿を持っていった。

 会場となっているパドレア邸庭園では、そこかしこでさまざまな種類の話題で盛りあがっている。

 エテーネ王国の小評議会メンバーである、若手錬金術師のホリスとモリュブは庭園の隅っこのほうでモゾモゾとミラクルサンドをほおばっていた。
「なんだか気おくれしちゃうね、ホリス」
「私達は貴族でもない、ただの錬金術師だからな……」
 そこに情報屋グッディがなれなれしく二人の肩に手を回していう。
「若者たちよぉ、もっとアバンギャルドにいこうぜ。俺サマたちは国を代表してここにきてるんだ。ほれ、みろよ。マルフェさんは早速人脈をつくっているようだぞ」
 見ると、マルフェがグランゼドーラの金髪おかっぱ女性とたのしげに歓談していた。
「ヒストリカ博士というらしい。マルフェさんいわく尖りきった天才だとか……良いねえ、アバンギャルドだ」
「お貴族さまは、そういうのが仕事みたいなもんでしょう」
「それに、誰が誰だか……?」
「たはー、お前さんがた、俺っちの心血そそいだ資料をみてねえのかよぉ」
 グッディが首をふってなげく。
「いやあ、見ましたけどさすがに写真もないし、会ったことのあるアンルシア姫殿下しかわかりませんよ?」
「……じゃあ、俺サマが直々に説明してやるよ、耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ。まずは……」
 そういって、グッディは若者たちに頼まれてもいない国際事情の解説をはじめた。

(なぜだか、どうにも気になってしまうな)
 錬金術師コンギスは、ひとりで酒肴を味わっていたが、ちらちらとそちらの方をみてしまう。
 それは、アラハギーロのミラン王太子のお付きである、武官のオードランという妙齢の女性であった。
(ひと目見た時から、なぜだか他人という気がしない)
 コンギスにとって、このように思う女性は初めてであった。
 オードランはコンギスの視線に気づいたようで、彼女はゆっくりとこちらへ向かってくる。
(やばっ)
 コンギスはうろたえて、そっぽをむく。しかし、オードランは構わずにコンギスの隣にまで近づいてきて話しかけてきた。
「はじめまして、エテーネ王国の小評議員コンギスさま……でしたか。私になにか御用でしたでしょうか」
「……ええと、あの、……どこかでお会いしたことがあるような気がして、ですな」
 オードランは『あら、まあ』という微苦笑を浮かべる。
(どう考えても、あさい口説き文句みたいなことを言ってしまった)
 しまった、とコンギスは後悔する。
「ふふふ。地元では、ハグニルの子孫……女だてらに猛き武門の嫡流にして、紅き竜の生まれ変わりなどといわれる私に対して、案外とそういう事をいってくる殿方はおられないんですよ?」
(紅き、竜……?)
「……不思議なこともあるものです。私もあなたとどこかで会ったような気がするのです」
 そのように、ふたりは少々の時間見つめあった。

 娯楽島ラッカランの島主ゴーレックが、はずれにあるテーブルにて数人の執事たちとエテーネ王国についてからの取得メダル枚数を確認している。
「なかなかの収穫でありますな!」
 あらたに集まった数百枚のメダルを見てゴーレックはご満悦であった。本来ならこんな式典など歯牙にもかけないゴーレックであるが、エテーネ王国が新たにできた新天地であるというので、取りつくした既存の大陸よりもちいさなメダルが多く残っているだろう、との狙いでやってきたのだ。
(しかし、やはり『アレ』はなかったでありますか……)
 さらにゴーレックにはひそかな野望もあった。信じがたいことに、このエテーネ王国は超古代から時渡りでやってきたとされる。もしその話が真実であれば、夢にまで見た『古代ちいさなメダル』……この世界にちいさなメダルをもたらしたメダル仙人つくったとされる、ちいさなメダルの原型。それの手がかりがえられるやもしれぬ、そういった目論見もあったのだがそちらの方はどうやら空振りに終わりそうであった。

 グレン王バグドは、ガートラント王グロスナーをみかけて近よる。
「これはグロスナー王。六種族の祭典以来ですな。おかわりなく」
「バグド王か。そなたもかわりないようじゃな。……今回の式典では主だった国の顔ぶれがだいぶ変わったこともあって、このような『かわりない』というなにげない挨拶も少々趣深くきこえてくるの」
 そういって、ふたりは手に持ったワイングラスで小さく乾杯をする。バグドは会場を見渡して、感慨深くいう。
「確かにそのようですな。ヴェリナードに、ドルワーム、グランゼドーラ、アラハギーロ。……それに加えてプクランドも以前から代替わりしていて、まさに若者の時代がきたと言うべきですかな。われわれのような古参には少々いづらくなりました」
 グロスナーは重々しくうなずく。
「そうじゃな。しかしそれは良きこと、自然のことでもある。若者たちに時代を引き渡すのも我々の役目じゃて」
「そういえば、今回はゼラリム姫もおいでなさっているとか。ご病気だと聞いていたのですが……」
「そうじゃ。ほれ、むこうでニコロイ王の娘御、リン姫と話しておるわ。……実はの、賢者マリーンの姿を騙った偽物――そなたも苦しめられたと聞く――がゼラリムの治療をしておったのじゃが、その術も当然一時的なまやかしであろうと思っておったのじゃ。じゃが、その偽物は真の目的以外には誠実であったようでな。わが孫は実のところかなり回復しておった。最近わが城に居着きはじめた小娘からその事で説教されてな。それできづかされた。今回のキィンベル式典へのゼラリムの参加もその流れでなったというわけじゃよ」
「グロスナー王に説教ですと!?それはまた、命知らずな娘もいたものですな……」
 バグド王は驚愕し、目を見開いていう。
「はっはっは、たしかにあの娘と話していると確かに若者の時代が来たと感じる。『これからはオーガも脳筋じゃあかん』などというて色々と小賢しいことを考えておるようじゃ。いずれそなたとも顔をあわせる機会もあるであろう」
(……のうきん?)
 その妙なワードについて、バグドはいぶかったが、それには触れずに続ける。
「なんと破天荒な……。……いずれにせよ、その者をだいぶ気に入っておられるようですな」
「そうじゃな。なかなかにおもしろいやつでのう、幼くしてパラディンの素養もあり鍛えがいもある。……そちらの、グレンの方はまだまだ代がわりの心配はなさそうじゃな。そなたもまだ比較的若いし、他の国とちがって世襲ではない、強き者から選抜するというシステムじゃからの」
 バグドはうなずく。
「さようです。しかし、我のかわりの候補となると、なかなかこれといった者がおらず、いざという時には紛糾しそうです。一応腹案はあるのですが」
「誰ぞ?……順当に行けばジダン兵士長かの」
「やつもなかなかの逸材ではありますが、我とそこまで年齢も離れているわけでもないですからな。世代交代という感じでもない……。まあ我の腹案は、今お話できるようなものではない。実現するかもわからない飛び道具のようなものです」
「……なるほど、では実現したときを楽しみにしておこう」
 そういって、グロスナーはその長い白ひげをさわりながらニヤリと笑った。
 他国のことゆえそれ以上は立ち入らなかったが、実は、グロスナーにはそのバグドの『腹案』はこうではないか、とおもっている事があった。
 以前、ガートラント王国の参謀マグナスと、そして件の小娘――ジェニャ――と三人で今後の世界について話したことがあったのだ。その時にジェニャはとても興味深いことを言った。
「グレンの次の王様には、ほんまにほんまに、もしかしたらやけど、マイユはんがなるんとちゃうかな。間違いなくめちゃくちゃ強いし、神の器ってことでカリスマもあるし、人のことを思いやれる心もあるし、グレンでの謎の人気もある。多分どのグレンの猛者よりも近い位置におると思うで。……本人の意思が向けばやけどな」
(……万万が一、それがなったとしたら彼女につけられるべき女王としての異名は、すでに決まっておるな)
 グロスナーは思う。
『クイーン・オブ・ハート』
 有名な、マイユの使う強力な必殺技。そしてそこから彼女についた冒険者としての渾名であった。
「ふっはっはっは、これはオーガもウェディのお株を奪って、女性の時代が来るのやもしれんのう」
 豪快にグロスナーは笑い、バグドがどきりとする。
(……どこまで見透かしておられるのやら、はかりしれぬお人よ)
と、そのように思った。
 その当のマイユも『盟友』の知己としてこの式典にもよばれていたのだが、そんな風に思われてるとはつゆ知らず、ごちそうをほおばっていた。そこに声がかけられる。
「あっ、マイユおねえさま!」
「あらっフウラちゃん、久しぶりね!ここのカスタードプリンおいしいよ、一緒に食べましょう」
 そのようにマイユはこの宴を楽しんでいた。

 オーディス王子は見知った顔を見つけて声をかける。
「やあ、ヒューザ君。その節は世話になった。息災のようだな」
「オーディス王子。ナドラガンドから帰還したときにヴェリナードに立ち寄って以来だな。そちらも元気そうじゃないか」
 二人は握手する。
「このたびは母上から、このような大役を任されて身が引き締まる思いだ。ヴェリナードの代表として恥じないふるまいをしたいよ」
「さっきの調印式も見ていたけどよ、十分立派に見えたぜ」
「そうか、君にそう言ってもらえるとうれしいよ」
(保護者つきのようだがな……)
 と、ヒューザはサッと後ろの方に目を走らせる。そこには太った私設兵団の長が、ガタラの怪盗と何やらにこやかに話していた。
「ほう、怪盗ポイックリンさんとおっしゃる。かっこいい仮面ですなぁ」
「ホッホ。そういうあなたの覆面もいけてましてよ。……正義の怪盗が必要なときは是非こちらまで」
 そのように名刺を交換して、謎の人脈をひろげていた。
 オーディスは気づかずに続ける。
「願わくば、母上父上にもこの私の晴れ舞台を見てほしかったところだ!」
(気づいてないのかよ……)
 やっぱり、ヴェリナードの未来が少し不安になってきたヒューザだった。

「ヒューザさん!」
 オーディスと別れたあとに声をかけられる。ヒューザが振り返ると懐かしい顔ぶれがいた。
 ラグアス王子、フウラ、マイユ。ナドラガンドでいっとき苦楽をともにした仲間たちだ。
 ヒューザも手をあげてこたえ、近づいていく。
「よお、お前ら!久しぶりだな」
 マイユがおかしそうに笑っていう。
「ヒューザさん、おもしろいんですよ。ラグアス王子が私達のことを夢に見たっていうんですよ」
「今日、俺たちがここで会う事を予知したってことか?」
 ラグアスの予知能力は有名だ。予知夢として今日のことを見たのだろうか、とヒューザは思った。
 ラグアスは恥ずかしそうにいう。
「いや……それが違うんです。実はですね、ずいぶんと過去の夢を見たのです。それは『盟友』さんが世界に登場しはじめたころ、各国の困りごとを解決してキーエンブレムを集め、最終的には『冥王ネルゲル』を倒すべく奮闘していた時代の……。そこで、なんとぼくたち……ぼくと、フウラさん、マイユさん、ダストンさん、ヒューザさん。そのみんなが『盟友』さんのかたわらで、一緒に仲間として戦っていたんです!」
「へぇ、そいつぁ……楽しい夢だな」
 ヒューザの顔もほころぶ。このみんなで『盟友』と一緒に冒険をする。それはさぞかし人生を変える旅になったことだろう。
「ぼくの、みんなと冒険したいという子供っぽい願望が夢になってあらわれてきたんでしょうか。ものすごい現実感でしたが……」
「……わかんねえけどよ、仮にもラグアス王子の夢だ。もしかしたら、その夢はあり得た過去だったんじゃないか」
 ヒューザは少し考えて、そのように言う。
「私も『盟友』さんと大冒険したかったなぁ」
 フウラが無邪気に笑う。
 それを聞いてヒューザが、からかうようにフウラとラグアスにいう。
「俺のその仮説が正しいとしたら、おまえらも俺たちや『盟友』並に強くなるポテンシャルがあるってことだよな。……いっちょ修行してみるか?」
 マイユもそれは良いですね、と手を打つ。
「よければ、体術や基礎訓練の方法なら教えられますよ」
「う、しんどそうなのは嫌です……」
 フウラは途端に逃げ腰になって、皆でひとしきりわらった。
 そこに、アンルシアもやってきた。アンルシアは懐かしい顔ぶれを見て嬉しがる。ラグアス、フウラ、ヒューザ、マイユ。浮遊大陸ナドラガンドでの仲間たち。かけよってアンルシアはみんなの顔を見渡して言う。
「ナドラガンドでの事が懐かしいわね。皆揃ってるのかしら」
「……ダストンさんが居ませんね」
 フウラが残念そうにいう。
「まあ、あの人はこういう華やかな場所には来なさそうですから……」
 と苦笑するマイユ。
「役に立つものばかりです!て言って隠れてそうですよね」
 皆、ダストンの口癖を思い出して笑う。
「そっか。たしか、お兄さんと折り合いが悪いらしいとも聞いたことがあるけれど……」
 アンルシアはちらりとラッカラン島主、メダルオーナーのゴーレックの方を見やる。
「そんな事を気にするようなタマかよ、あのおっさんがよ」
 ヒューザが笑う。マイユが少し思案顔でいう。
「……そういえば、ヒューザさんもあまりこういう場所には来られない印象ですけどね……。もしかして、なにか理由があるんじゃないですか」
 ヒューザは頭をかきながらいう。
「やっぱり、わかるかよ。……実はよ、ちょっと頼み事があってな。水の領界の海底都市ルシュカの話だ。知ってるかもしらんが、水の領界には『神秘のサンゴ』っていうのがあって、それと巫女フィナのチカラのおかげであのあたりでは水中でも息ができるんだがよ。ただそのサンゴが、人口が増えたからか骨董品だからかわからねぇけどよ、急激にチカラが衰えてきて、空気があと数ヶ月しか持たねえっていう話がある。……せっかく最近サンゴをきれいに掃除したのにって騎士たちは嘆いてた」
「それは……、海底都市ルシュカ存亡の危機ですね」
 話のスケールの大きさにフウラはおどろく。
「だがよ、神墟ナドラグラムにおさめた女神マリーヌのヤリを持ってきて、俺がそのサンゴの近くでヤリをかざせばマリーヌの力で復活できる……とフィナは言っていた。あの辺は結構敵も強いし長くかかる旅になりそうだから、腕ききの冒険者を探していたんだ。『盟友』がいれば誘うつもりだったが、あいつはいねぇみたいだな」
「そういうことでしたら、私が行きましょう。丁度アロルドの治療薬を聖都エジャルナに補充しにいきたいと思っていたことですし」
 マイユがたのもしげに自身の胸を叩く。
「……助かるぜ。あんたなら百人力だ」
 ヒューザは自身の希望どおり、強力な仲間がくわわってくれたことで安堵していた。
(……)
 対照的にアンルシアは少し、しまったという表情になっていた。
(ああ……、言い出しそこねてしまった)
 実は、アンルシアもヒューザやマイユたちと会えたら、頼みたいことがあったのだ。
 それは『魔界』での『盟友』の捜索……。そのための最有力のメンバー二人がおさえられてしまった。
 しかしちょうど良く、そこにあらたに二人がやってきて挨拶をする。
「これは皆さん、おそろいですね」
「お久しぶりです」
 そこにやってきたのは、エテーネ村のシンイと、アストルティア漫遊中の竜族エステラであった。
(……)
 その顔ぶれをみて、アンルシアは感じるものがあった。
(……この人たちに、お願いしてみようかしら)
 ひととおり世間話が終えてひと息ついた後に、アンルシアは彼らを呼びとめ、一縷の希望をもって事情を話しはじめた。

(大国の諸王たちに、当代の著名人たち。なるほど風格はあるが……)
 ジャベリ参謀は隅のほうで、その英傑や重要人物たちのふれあう様を見渡して、さまざまな情報を頭にたたきこんでいた。
(やりようは、いくらでもある)
 ジャベリはうすい笑みを浮かべながら立ち去ろうとすると、その近くにいたセオドルトがその表情を見て、軽く問いかけた。
「……ジャベリ参謀。この現代の人々をみて、何を思ったのだ?」
 ジャベリは、セオドルトの方を振り返って大仰に挨拶する。
「これは軍団長。なに、大したことではありません。さすがに数多くの事変にみまわれたという時代だけあって、皆いくさ慣れしているようだな、と」
 それを聞いて、フッとセオドルトは笑った。
「なるほど、参謀職の貴官らしい観点だ。直接相対するのは、過去世界では精強をもって知られていた我々王国軍でも厳しいのではないかな?」
 ジャベリはあごひげを撫でながら楽しげに返答する。
「まあ、そうかもしれませんな。しかし、そのように正直に『直接相対』しないようにするために、我々参謀があれこれと画策するのですがね。……おっと、警備のものたちに話をせねばならぬので、これにて失礼いたします」
 そう言いつつ一礼をして、ジャベリは去っていった。歩きつつ、ジャベリは思う。
(セレド町長一家も招かれていたはずだが、流行り風邪のため欠席か。来ていたら、いくつか布石をうっていたのだが、残念だ。……我が国は伝統的に、大陸における植民都市の有力者子弟をキィンベルに留学させ、丁重にもてなしてエテーネの文明に染めた上で支配の尖兵とすることが得意だった。セレド町長の娘、ルコリア嬢はうってつけだったのだがな。……まあ機会はいくらでも、あるか)

 JB一味はこの島の安全警備のために、あいかわらず高額でエテーネ王国参謀ジャベリに雇われていた。四人は皆、うたげの邪魔にならぬよう内に外に注意を払っている。
 そこに様子を見に来たジャベリ参謀が、ヒソヒソとJBに話しかける。
「……どうかね、問題なさそうかね?」
 JBは揉み手をしてジャベリにすり寄っていく。
「これはジャベリの旦那。へへっ、まったく問題なしですよ」
「そうか、君たちは目端もきくし腕っぷしも強い。メレアーデ様たっての希望で島を大量の兵士で囲むことなく、少ない人数でまもる事になり、君らに任せたのだ。しっかり頼むよ。もし滞りなくすめば、報酬アップを約束しよう」
「こりゃあ願ったりかなったりで」
「……君には期待しているよ」
 そうささやいてJBの肩をたたき、ジャベリが去っていく。
 ジャベリが去ったことを確認して、横で聞いていたトーラが無表情でボソリとつぶやく。
「……JBの小悪党感がヤバい」
 JBは小声でトーラに言い返す。
「ばっかやろう、ああいう手合はよ、金が第一のやつと思わせておけば安心すんだよ」
 ダンは、ちいさめの望遠鏡をのぞきこんだり、はなしたりして遠くを見つめる。
 マークマンズワンドのスコープを使えばいいのだが、絵面が物騒すぎるのでいまは背中のライフルケースにしまっている。
 巡回していたJBは、気になってダンにきく。
「なんか、あったのかよ?」
「……エテーネ王国の浮島技術ってやつぁ、今はうしなわれてるんだよな?」
「実際のところはわからん。俺が確実だと思っているのは、ほとんどの浮島は過去にのこされたままになっていて、浮島技術を持っていた錬金術師たちの総本山である王立アルケミアとやらは滅んだとされ、もとは浮島だったこの王家所有のパドレア邸ですらも浮かせるだけの力はない、ということだ。……ダン、浮島らしきものが見えたのか」
「……まだわからん。俺の勘違いかもしれん。」
「奈落の門じゃねえのか?」
「方向が少し違う。奈落の門はここから南東だが、俺が今見てるのはもう少し南だ」
「……じゃあ、もしかしたら時代の区切りに天から祝福しにあらわれるという、伝説の有翼人の島かもしれねえなぁ」
 そういって笑う。茶化すようなその物言いに、ダンは振り返って目をすがめる。
 JBは真面目な顔にもどっていう。
「へっ、わかってるさ。お前さんの目をうたがうもんかよ。……そういうことならよ、ちょっくらかげろう姐さんと一緒に様子をみてくるぜ」
「どこへだ?」
「地下室」
 そう手をふりながら言って、JBは足早にかげろうの方にむかっていった。
  
「厠は……どこだ」
 ビャン・ダオはトイレを探しつつ考えていた。
(……)
 アラハギーロのうろんな占い師から「キィンベルについたらグルヤンラシュの事を調べろ」と言われた事を。
 悪い夢の中の出来事のようにも思えたその出来事を、アラハギーロから今までずっとずっと考えていた。
 答えは出ない。出るはずもない。何でも言いあえるはずのラミザにすら相談できなかった。
 結局のところ、このキィンベルでグルヤンラシュの事について調べてはいない。だれにも聞いていない。
 ビャン・ダオは右の首筋をおさえる。ひどく痛む。頭も重い。アラハギーロではそこまでの苦痛ではなかった首のうずきが、エテーネ王国が近づくにつれ耐えがたいほどのものになってきていた。まるで「はやくきけ」と急かすように、ビャン・ダオには感じられた。
(そういえば、ディオニシアにもらった『破邪のネックレス』は壊されてしまったのじゃったの……。いや盗まれたのじゃったか?)
 そのようにうつろな意識のなか、パドレア邸のなかをさまよい歩く。
「……どこだ、厠は」
 暗い廊下を、ふらつきながら進む。
「どこだ、ここは……」
 キョロキョロと周囲をうかがう。
 すでに、用意された会場の領域ではない場所まで来ていた。
「ああっ、お客様、いけません!そちらは違います」
 メイドのハーミィがそれに気づいて慌ててビャン・ダオを呼び止める。
「…………」
 しかし、ビャン・ダオはハーミィの声も聞こえないように放心して、立ちどまってその空間をみつめていた。
 時の必然か、邪神のいざないか。ビャン・ダオはたどり着いてしまったのだ。
 そこに。
 パドレア邸の倉庫部屋の中にひっそりとたたずんでいる、彼に。
 気づいてしまったのだ。否、彼の像であった。美しき青年。ドワーフ史上最大最強の国家であったとされる、ウルベア帝国の最盛期にして末期。身ひとつで宰相までまたたく間にかけ上がり、その後も辣腕をふるい続けたという伝説の人物。そしてその覇業の裏で、先帝ジャ・クバ暗殺をはじめとしたさまざまな悪行をおこなっていた。それらが明るみになったのちには、あまりの所業に、その美貌もあいまってか、あしき魔物の変身した姿だと信じられるようになった。
 当時、その名をグルヤンラシュといった。
「侍女どのや……」
「あっハイ、なんでしょう!」
 侍女?と思いつつもハーミィは元気よく聞き返す。
「……この像の方のお名前は、なんとおっしゃるのかのう」
 ビャン・ダオは不気味なほどに、にこやかに、おだやかに、問うた。ハーミィはその像を見て、なんの疑問もいだかずにいう。
「あー、これはですねっ、クオード王子……じゃなかったクオード先王陛下の像ですね!かっこいいですよね~」
 ビャン・ダオはさらに問う。
「……なるほど、なるほど、『クオード』殿。余もエテーネ王国のあらましは少々勉強させてもろうた。メレアーデ姫の弟御。それはメレアーデ姫が帰還する前に、さまざまな災害に直面して混乱していたエテーネ王国を導き、崩壊から救った英雄王だとうかがったが、相違ないかや?」
「そのとおりですっ。改めていわれるとすごいひとですね!」
 ハーミィは無邪気に先王の偉業をほめたたえる。
「……」
 ビャン・ダオは無言で歩きだしていった。いつの間にか、首の痛みは消えていた。

(ビャン君、大丈夫かなぁ)
 ねりねりと、最高級品のヒールカルボナーラをフォークにまきつつラミザは友のことを案じる。
 ビャン・ダオはトイレに行くといって向かったまま三〇分ほど帰ってきていない。
「……ねえ、ドゥラ君。やっぱり僕探してくるよ」
 ドゥラはバトルステーキをほおばりつつ、そこまで大事でもない、というふうにこたえる。
「調子悪いみたいでしたからね。とはいえ彼も我々とおなじくもう大人といってよい年頃。体調管理など任せておけばよいのです。そもそも体調不良ならば式典にでなければよかった。彼の出席は必須ではなかったのだから。それで、無理して体調をさらに崩しているのならもう自己責任でしょう。なに、タフなビャン殿のこと、トイレで休んでるだけでしょう」
 そういってドゥラは、まだ食べてない珍味をもとめて遠方のテーブルへ向かっていった。
「……」
(ドゥラ君のこういうとこ、冷たいというかドライだよなぁ)
 とラミザは思う。しっかりした人間というものは、そのように考えるべきなのだろうか。
(なんだか、鬼気迫るものを感じたんだ。是が非でも、この式典に出なければいけないっていう……)
 そこに、アラハギーロのミラン王子がやってきて、笑顔でラミザに話しかけてきた。
「ラミザ王子、ご機嫌うるわしゅう。……あの、その後ビャン殿は大丈夫でしたか?」
 アラハギーロを出発したときのごたごたがあったために、ミランもビャン・ダオのことを気にして問う。ラミザは首をふってため息をつく。
「それが、とても調子悪いみたいなんです。アラハギーロを出て、最初はそれほどでもなかったのにキィンベルについたら、どんどんと具合が悪そうになってしまって。でも絶対にこの式典には出たいみたいだったんです。まるで石にかじりついても出るといった気迫を感じて……」
「……それは、なんだか心配ですね」
 そのままミランと少し話していたが、ミランはお付きの武官オードランがあらわれて、共に去っていった。
(まだ来ない……)
 さすがに迎えにいこう、とラミザがトイレのあるパドレア邸内に向かおうとした。
 その矢先、扉があいてビャン・ダオがあらわれたのだ。
「ビャ……」
 ラミザは、呼びかけようとして息をのんだ。
 そのビャン・ダオの目からは、見たこともない静かな憤怒があふれていたのだ。
「……メレアーデ姫は、どちらかの?」
 ラミザの方を見ようともせず、そのように問うて歩きだす。
「ど、どうしたの、急に。ちょっと、おかしいよ。あれだけ具合わるかったじゃない」
 ラミザは、立ちはだかるようにしてビャンの歩みをとどめる。
「どうしても、問いたださねばならぬことができたのじゃ。ラミザ、そこをどくがよい」
 ラミザは、ここでビャンをとどめなければ、もう自分の知るビャン・ダオは戻ってこないのではないか、という漠然とした不安におそわれた。ビャンにしがみつくようにおさえる。
「い、いやだッ」
 ビャンはそれを強く振り払った。ラミザは転ぶように倒れる。
「……すまんの、ラミザ。余はやはりガテリア皇子であった。どうしても決着をつけねばならんのじゃ」
 そうして、かえりみることなくビャンは進む。
 
 ついに、メレアーデがいた。ひとりであった。
 メレアーデは連日の激務や、この催しの準備、セオドルトとの約束、ジャベリの企み、などで精神的に疲労の極みであった。しかし悲願ともいうべきこの式典を開催できたことで、そのような労苦もようやく報われたと思った。各王族や有力者との社交的な話をひととおり終えて、たった今、ひといきついたところであった。
(これで、まずは第一歩を踏んだわ。クオード……)
 そのように亡き弟に思いをこめて語りかけて、飲んでいた杯をゆっくりとあけた。

 そこに。一人のドワーフがひざまずいた。
「お初におめにかかる、メレアーデ姫」
 そのドワーフは顔を伏せ、そのように切り出した。
「余は、ガテリア皇国第一皇子ビャン・ダオと申すもの」
(……?)
 メレアーデは、一瞬なにを言われたのかわからなかった。そんな国は現代にはなかったはず……。
「余も、そちと同じように、時を越えてやってきたのじゃ。こちらは身体の冷凍保存という単純な科学のチカラでな。そして奇遇にもここで交錯した。不思議なことじゃな。こんな偶然がありえるというのかの。まるで余に復讐をなしとげよ、と神が言うておるようではないか?」
 たんたんとビャン・ダオは続ける。
(…………!)
 メレアーデは彼の言っていることが少しずつ頭に入ってくる。
 彼が何を言わんとしているかが。メレアーデのうなじに、いいしれぬ大きな恐怖がせりあがってくる。
「余が、メレアーデ姫にうかがいたいことは、たったひとつじゃ」
 そのドワーフは顔をあげてまっすぐにメレアーデを見つめた。彼の表情はすでに確信めいた憎悪にみちていた。
「……グルヤンラシュ。この名に聞き覚えはおありか?」
 すぅっとメレアーデの表情から血の気が引き、顔が青ざめる。
(グ、ルヤン……)
 ぐらぐらと、世界がまわる。
 メレアーデは何かを言おうとして、意識が暗転するのを感じた。
 震える手から、メレアーデの持つグラスが落ちて、割れた。
(罰が……あたったというの?滅びゆく王国を救ったことの罰が……)
 おちゆく意識のなかでメレアーデはそのように思った。

 JBとかげろうは、パドレア邸の地下に潜り、灯りをつけて調査していた。
「……こんなところに、なんかいるわけ?」
 かげろうは、うたがわしげにその埃っぽい道をあるく。JBは自分の意図を説明する。
「あんな猛者ばかりのとこに、本来護衛なんていらんだろ?注意すべきは遠方からの狙撃だが、それはダンがいるから問題ないよな。正攻法ならキィンベル側の転送装置から来るが、向こう側はガチガチにエテーネ兵に守られてるしよ。だが、この島は人工的に固定はされてはいるが、元々浮島が落下したもの。つまり船みたいなもんだ。船底に細工されたら大惨事にもなりかねんだろ。ダンが遠方に浮島らしきものを視認したらしい。それが万が一この島を狙っての拠点だったとしたら、狙われるのはここだ」
 そういって、左右を見渡す。かげろうは、
「なるほどねぇ、でもなにも……」
 いなそう、といいかけたところで、その部屋に人よりは小さめのなんらかの塊がうごめき、二人に気づくとカサカサカサと高速で動いて逃げようとした。
「うおっ?」
「ひっ」
 一瞬ふたりとも虚をつかれるが、そこは歴戦の猛者。その物体をすぐにかげろうは捕縛した。
「うああ、ちょっと、じたばたしないでよぉぉ」
 かげろうは捕まえたモノが動き回るのに閉口しながら拘束を強める。
 そしてかげろうが捕まえているその物体、いや人物を確認したJBは、思わずおどろきの声をあげた。
「あんたは……!」

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