アストルチアの謎

ドラクエ10の設定、物語について語る、予定

【小説】奇跡の代償は 15章『大錬金術師からは逃げられない』


奇跡の代償は 15章『大錬金術師からは逃げられない』

■概要

Version4のアフターストーリー、第15話。
舞台はV5.0終頃のエテーネ王都キィンベル。
主人公は魔界で行方不明扱い。

■15章『大錬金術師からは逃げられない』の登場人物
ピュージュ:旅芸人。邪神ピュージュの一部。
少女:『盟友』の姉

 キィンベルの高い城壁の上から、その様子を眺めていた道化師が身をよじらせて笑っていた。
「ひゃっはっはっは!なかなか傑作な展開じゃないか。ビャン皇子、なかなか素晴らしい踊りっぷりだよ、君は!あ~楽しい!!」
 旅芸人ピュージュ。その正体は嘲弄の邪神ピュージュとして異界滅神ジャゴヌバの意をくみ、アストルティア全土で六種族にわざわいをなしている。
 おもてだっては人類圏でもガミルゴの盾島、邪神の宮殿、摩天の聖廟、冥王の心臓などといった魔の者にとって重要な拠点が点在するオーグリード大陸を中心として活動をしていたが、他にも多くの陰謀にかかわってきた諸悪の根源ともいうべき存在。
「そしてメレアーデ姫。なんでもかんでも猫ちゃんにお話する癖は、おやめになられた方がよろしいですよぉ……。アハッ、おかげでエテーネの村であなたの猫屋敷に忍び込んで、グルヤンラシュとガテリアの因縁を知ることができた」
 ピュージュにとって、人びとがみずからの虚言によっておどらされて、あらそいに発展していくのを見るのはたならなく楽しかった。ピュージュは虚実まぜた噂を市井にばらまく。それが人びとの悪意となって育っていき、高潔な王は狂い、うつろいやすい民衆は怒り、堅牢だった国家がついには滅んでいく。本当でない吹聴する事だけで、人びとが自滅していき、それを安全な立場から眺める。
 その様はピュージュにとって滑稽であり、この上ない娯楽であった。
「ぶひゃひゃひゃひゃ!」
 ぶざまに巨大な怪物へ変貌を遂げたビャン皇子をみてさらにケタケタと笑う。しかし、ひとしきり笑ったあとに、むっつりと押し黙った。ピュージュにとってはひとつ不満があったのだ。
(……本当のこと、なんだよなあ)
 ビャン皇子の怒りはある種正当なものであった。グルヤンラシュがかつてのウルベア帝国の宰相として、ビャンの故国ガテリア皇国を完膚なきまでにほろぼした。いとしき家族、尊敬すべき師、護るべき国民を奪われた。そのグルヤンラシュが、エテーネ王国の先王クオードであるという真実をただ知ったにすぎない。ピュージュはその怒りを利用して、ちょっと手を加えただけである。
 根も葉もない噂話を、さも本当のようにみせかけて、その虚言にまどわされて狂態を演じる人間どものおろかさを眺めることこそを至高の楽しみとしているピュージュにとってそれは、画竜点睛をかいているように思えた。
「……どうしたの、旅芸人さん。急に笑いやんでさあ」
 そんなピュージュに、不意に声がかけられた。声の方を見やると、見も知らぬ少女が城壁の上を歩いてきてピュージュに近づいてくる。めずらしい、緑赤の服を身にまとった少女が。
「……?なんだよ、お前……」
 このような高い城壁の上に来る人間などただもののはずがない。いつもは仮面をかぶるように陽気な声で話すピュージュだったが、知られざる自分の遊び場に闖入してきたその謎の少女にはむっつりと、警戒心をもって問いかけた。それに対して少女はいう。
「あれって『進化の秘法』よね。『黄金の腕輪』がなくてもあんなことができるというの?」
 ピュージュはフン、とつまらなさそうに鼻を鳴らしてこたえる。
「質問に質問で返すなよな……。キミ、錬金術師か。まあいい、今は機嫌がいいからおしえてあげるよ。……もともと『進化の秘法』は魔族のあいだで発展してきたもので、魔界の方が水準が高いんだ。かつてはアストルティアの帝王を『災厄の王』として堕落させるために使われたりもしたようにね。そりゃ『黄金の腕輪』があればもちろん完璧だったけどね。もったいないことにアーヴって人間の錬金術師が最近カルサドラ火山に捨てちゃったらしいんだよねぇ。まあ、あれは基本的に増幅装置。……かわりの媒体として『戦禍のタネ』を使えばあれくらいのことはできるよ。もし『黄金の腕輪』があったらさ、本当はあそこからさらに頭が生えてきて顔がふたつになるんだけどね。でも胸に顔があるだけの今の姿の方がずんぐりしててドワーフっぽくて似合ってると思わないかい」
 そういってピュージュはアヒャヒャヒャと笑う。
 少女は、それを聞いて感慨深く思った。
(そうか、おとうさん……バルザックとの因縁に決着をつけたのか)
「はい、教えてあげたよ。それでキミは一体何者なんだい?」
 ピュージュは交換条件だよ、と言わんばかりに少女の方を向く。
「……しがない、時の放浪者よ。旅芸人ピュージュさん。いや『邪神ピュージュ』のかけらと言った方がいいかしら」
 そうやって、少女はやにわに闇の呪文の奥義ともいうべきドルマドンを唱え始める。
「!……お~いおいおいおい、最近の錬金術師ってのは辻斬り?も仕事なのかい」
「あんたの悪だくみはここまでよ。そしてあんたを本体のもとに返すわけにはいかない!」
 呪文が完成し、強大な闇の呪文が解き放たれる。
「 ド ル マ ド ン !」
 その闇の衝撃波がしたたかにピュージュを打ちつけた。
「ぶへぇ」
 ピュージュは吹っ飛ばされるが、足の下にサーカスで使うような玉を浮き上がらせて、それに乗ってそそくさと空を逃げていこうとする。
「バッハハ~イ、事情通の錬金術師さん。君のことは覚えておくよ。ビャン皇子とメレアーデ姫の舞台も最終章をむかえそうだし、最後まで観劇したかったけどねぇ」
 ピュージュは少女に対して、馬鹿にするように玉の上で両手をふる。

 それを見て、少女は印を切る。
「ハァッ」
 たちまちピュージュの周りが氷塊で固められ動けなくなった。そうして少女の方にぐいっと引き寄せされ、その氷塊はどんどんと小さくなっていく。
(な、なんだこれ?)
 少女の掌におさまるほどになった時に、ピュージュはようやくその檻を打破する。
「へぶしっ」
 しかし、そこに少女のブーツで顔を踏まれた。
「へぇ、やるじゃない。これ、六種族の祭典で勇者姫アンルシアをも捕らえた氷の呪法なのに。でもここまで吸い寄せられたら意味ないね」
 ぐにぐにと踏みつけてくるブーツから逃れようと、じたばたとピュージュは暴れる。
「ねぇ、あたしちょっと推測したんだけど、ちょっと聞いてもらえるかな?……あんたってさ、もしかして『レンダーシア内海担当』のピュージュだったりしない?……そうだとして、もう少し聞きたいだけどさ」
 少女は威圧的に目を細め、声を低めていう。
「たくさん質問して悪いけどさぁ、いったい誰が、時渡りをする一族がレンダーシアの忘れられた小島にひっそりと生き続けているという事実を知り、最初に危険視したのかしら?……魔導鬼どもの、本当の親玉はだれかしら?いったい誰が、大魔王マデサゴーラや冥王ネルゲルに注進したというのかしら?それは、あなた……?それとも、他の邪神さん?魔祖の誰か?それとも……、異界滅神ジャゴヌバその人だというのかしら」
 そういって、さぐるように道化師の白い顔をみつめる。
「……」
 ピュージュはだまる。少女はその威圧的なまなざしをおさめ、首をふって続ける。
「いけないわ、あたしもビャン皇子と同じ。故郷のこととなると、つい熱くなっちゃう。……あの脳天気な、あたしの愛すべききょうだいは、もうそういう、復讐のくびきからのがれたというのかしら?」
 ピュージュ無言でじたばたとする。
(いわないか、しらないか……。どちらにせよ、まあ無理か)
 逆にピュージュの方が、ニタニタと笑いだして少女に話しかける。
「わかったぞ……この魔力、お前『魔仙卿』だな?」
「?……なんのことよ」
「とぼけるか。ボクたちはジャゴヌバ様と魔族どもをつなぐ『魔仙卿』が代替わりしたらしいことには気づいているんだぞ。あの被りものなどで巧妙に魔力を同一に見せかけているようだが、たんねんに調べれば魔力の波長が違うことはわかる。魔界において最重要人物ともいえる『魔仙卿』がまさかこんな人間の小娘になっていようとはね……」
 それを聞いて、少女はいくぶんか黙る。
(…………)
 そして、やにわに哄笑しはじめた。
「あっはっはっはっは!はっはっは!なるほどねぇ、魔界の重要人物『魔仙卿』。それがあたしであると、ピュージュさんは看破したわけだ。邪神のおすみつきとあらば、それは間違いないことだわね。あっはっはっは!」
「な、なにが、おかしい……、なにを、笑っている?」
 ピュージュは不快げに問う。笑うのはボクの専売特許だぞといっているかのように。
「これは笑わずにはいられないわね。ついに間近にせまっていると思っていた、あたしの時渡りの旅の終わり、あたしの命の最期がどうやらまだこなさそうだなんてね。ありがとう、あたしの命がまだ続くことを教えてくれて」
(そうだ。あたしはこの前の時渡りで『魔王イーヴ』に出会った。細切れになりいよいよ終わりをむかえようとあたしと、家族に見捨てられた彼とで、彼の理想郷であり、あたしが長く旅したこのアストルティアの思い出の地をまわるという、最期の傷心旅行めいたものをした。あたしの時渡りの呪いは常に出会った『人物』に影響される。時渡りが発動して、大海の上などに落ちたりはしない。今まであたしは魔界に飛ばされた事はなかったが、おそらく彼と出会ったことで魔界への門戸が開いたのか。そして、その時渡りのターンは多分、この次が、その次か、といったところかしら。そこで何かが起こる……)
 呼吸をととのえて、少女は続ける。
「……あたしはね、永久とも思える時獄の迷宮をさまよい歩くなかで、様々な時の転換点をみた。ふしぎなことに時獄の迷宮が見せる、時の転換点は強固な歴史の修正力に守られていないようなのよね。あたしごときでも歴史に介入できる。そして、ここにきた時渡りこそが、いよいよあたしに残された最後の大仕事だと思っていた。でも、どうやら楽にはまだなれそうもないらしいわね。まぁ、やるべきことがあるっていうのは良いことよね」
「なにを、訳のわからないことを……!」
「あんたにもわかるように言ってあげようか。あんたには絶対にここで滅んでもらわなくちゃいけなくなった、ということよ。どうやら魔界にいるらしい、もう一人のあたしのためにも」
「……」
 すこしの沈黙のあと、ピュージュが不意にメラゾーマを放ってその拘束からのがれ、逃げようとこころみる。
「ハナちゃんッ!」
 少女はさけぶ。後方から、ごきげんな帽子を被ったトンブレロがあらわれる。
「 イ オ マ ー タ ッ!」
 そして、そのトンブレロは強力な光の呪文が連弾ではなった。
「 ド ル マ ド ン ! 」
 追撃で、少女もふたたび闇魔法の奥義をはなってとどめをさす。
「あびゃあッ!」
 光と闇の魔力があわさり、ピュージュを完膚なきまでに吹き飛ばす。
 そして、ピュージュの体が、魔の者の最期である黒い霧となって霧散するところをしっかりと確認する。
「……よし。間違いなく滅ぼした。さて、ダストンさんはうまくやったかしら……」
 そういって、少女はパドレア邸の方をみやった。

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