アストルチアの謎

ドラクエ10の設定、物語について語る、予定

【小説】奇跡の代償は 5章『赤い賢者と緑の合成屋』


奇跡の代償は 5章『赤い賢者と緑の合成屋』

■概要
Version4のアフターストーリー。第5話。
舞台はV5.0終頃のエテーネ王国首都キィンベル。
主人公は魔界で行方不明扱い。4000字程度

■5章『赤い賢者と緑の合成屋』のおもな登場人物
ルシェンダ:賢者組織『叡智の冠』のリーダー
リーネ:ヴェリナードの合成屋。秘密結社『世界の均衡者』リーダー

 長旅を終えて、馬車から降り立った賢者ルシェンダを待ち構えるように、後ろから声がかけられた。
「はあい、お久しぶり~。長旅ご苦労さま」
 軽い呼びかけに、ルシェンダはムッと顔をわずかにしかめて呼ばれた方をふりむく。
「……お前か」
 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、その女、合成屋リーネはルシェンダの方へ軽やかに歩み寄ってくる。
 横に並んだリーネを、ルシェンダは歩きつつ目だけでそちらの方を見やり、内心おどろきつつ口を開く。
「なんのつもりだ。お前も私と会うのは避けていたはずだ。秘密結社『世界の均衡者』頭目リーネどの?」
 リーネはそれを受けて立ち止まり、キィンベルだからか完璧な『エテーネのあいさつ』を披露して嫌味たらしく云う。
「それは恐れ入りますわ。秘密結社『叡智の冠』頭目ルシェンダどの。ほまれ高き、千年の『叡智の冠』。万年の『六聖陣』。新組織としては、それらご先輩方に並び称されるように精進いたしますわ」
 軽妙な口調でリーネは返す。暗に同じ穴のももんじゃだろ、と言われているようだ。
(これだ。こいつには昔から口で勝てる気がしない)
 ルシェンダは閉口する。反対にリーネは相好を崩してルシェンダに語りかける。
「そう露骨にイヤな顔しなさんなって」
 ルシェンダはリーネをジロリと見返していう。
「お前が裏でやっていることは、私は容認できない。会えば私は糾弾せざるをえない。……なぜキィンベルに来たのだ」
「久しぶりに旧交を温めに……なんてね。相変わらずムスっとしちゃってさぁ」
 肘でルシェンダをつつき、あっはっはっは、と笑うリーネ。
 今、こんな風に軽々しく彼女にからんでくる人間はいない。王侯貴族も、将軍や大臣、伝説の勇者に到るまで『叡智の冠』筆頭である彼女には礼を尽くす。
「ふ、ふ、ふ……」
 ルシェンダは俯いて目を伏せる。位人臣をきわめたルシェンダへの不遜な態度に怒っている……わけではなかった。
 ルシェンダはそのあけっぴろげな軽口に懐かしさを感じていた。はるかな昔、このようにリーネと気軽につるんでいた時代を思い出したのだった。
 リーネが何のつもりで、いまさら袂をわかったルシェンダと会いに来たのかは分からないが、まあよい、とルシェンダは思い少し乗ってやることにした。話しているうちにリーネの狙いもわかってくる事だろう。
「まあいい、聞こう。テロ行為の相談ならごめんだぞ」
 リーネはフフンと笑ってかえす。
「平和を願うこの『均衡者』にそんなジョークをいえるのは、世界広しといえどもあんたくらいね」
「変わらないな、お前は。そしておかしなものだ。お前のようなひょうひょうとした女が、『世界の均衡者』などとうそぶき、神代のアイテムを集めて回り、封印しているなどとな。聞いたぞ。今もナドラガンドにも続々と冒険者が増えているのは、ナルビアの街に気球組合ができて、飛竜などに乗れぬ一般の冒険者でも気軽に奈落の門に到達できるようになったからだとも。気球組合には謎の人物から巨額の資金が供与されたそうじゃないか?冒険者で賑わった聖都エジャルナや、神官を派遣しているダーマ神殿からはたいそう感謝されたそうな」
「あら~、いいことね~。手に入れた古いアイテムは、エジャルナで謎の人物が主催するオークションが開催されているから、そちらで捌いてもらうと嬉しいわね♪」
 とぼけた口調で、しらじらしくリーネはかえす。ルシェンダはさらにいう。
「他にもこんな話も聞いた。かの高名な防具コレクター、ジグロウと最近契約を結んで、近頃発掘されたゼルメア遺跡の探索に乗り出したそうじゃないか」
 リーネは驚いたそぶりをして、持っていた扇を口元に当ててフフフと笑いをこぼす。
「あらぁ、さすが、早いわね。あそこは防具だけでなくヤバいもの……神代の危険なチカラがある。ジグロウとは利害が一致してね。彼は防具にしか興味がないし、私は神代のアイテムにしか興味がない。私が魔除けの札や姿隠しの聖水を提供する代わりにそれらしきものを私のところへ持ってきてもらう、そういう契約なのよ。あ、ついでに『眠りのギッショ』とも契約を結んでいるわよ」
「ほう、身の丈にあわないダンジョンに潜るが、昏倒したあとになぜか何食わぬ顔でお宝をもって帰ってくる事で有名な、あの謎のあらくれ『眠りのギッショ』とも……」
 ルシェンダが大真面目でギッショについて語る内容が面白すぎて、わははは、とリーネは爆笑する。
「いや、たしかにそうなんだけど、あらためて聞いてみるとめちゃくちゃ情けないわね」
 少しのあいだそうやって笑ったあと、リーネは「はぁ、笑い疲れた」といって目を軽く拭った。
 ルシェンダはゼルメアの関係者といえば出さない訳にはいかないと思い、『彼女』についても語る。
「……ゼルメアに関しては、世界宿屋協会のロクサーヌ殿も動いているそうだが。知らぬ仲でもあるまいし、連携をとればどうだ」
 それを聞いてリーネは腕を組んで、フンと鼻を鳴らす。そしてその仮の姿、身分をあざ笑うかのようにいう。
「揺り籠からの古神、宿屋女神ロクサーヌか。アレがあそこにあると気づいてるのはあの女神とあたし位のものね。別にあいつは嫌いじゃないけどさ。あたし以外のやつにアレを任すのも不安なのよね」
 ルシェンダは、リーネの言葉の奥を読みとる。
(女神ルティアナ様の創生のチカラ、か。リーネ、いや『世界の均衡者』からすると最高レベルの危険度というわけか)
「向こうも同じように思っているだろうなあ」
 ルシェンダは皮肉げに唇を歪めていう。
 ま、違いないわねと肩をすくめるリーネ。ふたり、ひとしきり笑いあい、わずかな沈黙がながれた後。
 流し目をちらりとルシェンダに向けながら、リーネはぼそりという。
「……『賢者の冠』『終末の繭事変についての最終報告書』読ませてもらったわ。……だいぶエテーネ王国に温情的じゃない?」
 ルシェンダはぴくりと片眉をあげる。
(さて、そろそろ本題に近づいてきたか?)
 ルシェンダは心を少し仕事モードに切り替えて、まずは牽制のような問いを口に出す。
「なんでお前がそれを読んでいる。……もしやチリ殿か?」
 王族や将軍大臣クラスにしか知り得ないはずの極秘文書を、たんなる一富豪であるリーネがなぜ知っているのか。
『世界の均衡者』構成員ではないものの、協力関係にあるとルシェンダの耳に伝わっている、ドルワーム王国王女にして怪盗ポイックリンでもある、チリからのルートなのか、と。
「あんないい娘に、そんな後ろぐらい事させないわよ。ルートに関しては……」
 口元に人差し指をあてて、企業秘密よ、というリーネ。
 いい娘が怪盗とは?と思わないでもなかったがそれには突っこまずに、ルシェンダは出どころについて考える。
(……まあ、普通にヴェリナードか)
 『世界の均衡者』の本拠地である大国ヴェリナードには、王立研究所や魔法戦士団にも構成員がまぎれこんでいると聞く。推測にすぎぬが、どうせ教えてはくれぬのだろうし、考えてもわからぬ事については仮の解をおいてひとまずよしとした。ルシェンダはリーネの問いに答える。
「出どころはまあいい。報告書に書いた通りだ。その重大な過去についてはもちろん看過できぬものはあったが、現在のエテーネ王国は『王国代表』メレアーデ姫主導のもと、時見や時渡りのチカラと訣別して、現アストルティアに溶け込もうとしてくれている。そのような姿勢を見せてくれている以上、我々の同盟国家として受け入れることは当然のことだ」
 それに対してリーネは懐疑的なまなざしをむける。
「さてさて。すこおし政治的な状況にとらわれて急ぎすぎじゃないかしら、ルシェンダ殿?『盟友』殿がいなくなって焦る気持ちはわかるけどさぁ」
 リーネは、私もお得意様の顔を最近見てなくて寂しいよ、と冗談とも本気とも取れるような表情で肩をすくめながら云って、言葉を続ける。
「百歩譲って今はいいとして、エテーネ王族がやらかした時見の乱用によって時の邪神ともいうべき怪物を生み出し、世界を滅ぼす一歩手前までいった事象を、もう少し重く見るべきじゃないの。現在のトップが少々融和的だからといって、その子々孫々に至るまでそうだと言えるのかしら?……報告書にもあったわよね。時の放浪者キュレクスは建国者レトリウスの見識を認め、時見のチカラを分け与えた。しかし子孫たち……十五代王様のギリウスだっけ?……が暴走してキュレクスを封じ、時見の箱を作り、それがキュロノスとなり今回の事件を引き起こしたと。もう時見の異界生命体はいないとはいえ、時見の王族はのこっている。今後も似たようなことが起こらないといえるのかな。少なくともさぁ……」
 リーネは立ち止まって上を見上げる。
 二人であるきながら、いつのまにか王都キィンベルの中央広場まで来ていた。
 そこには巨大な球体が鎮座している。
 それを眺めるリーネの両眼が精査するようにあやしく光り始め、そしてまがまがしきものを見るように、リーネは目をすがめた。
 ルシェンダに向き直って、目の前の巨大な球体を手で指し示しながら、リーネはいう。
「落とし前として、コレは滅ぼしておくべきじゃないかしら?」
 市民にはキィンベル最大のランドマークとして親しまれている、それは。
(……永久時環、か)
 エテーネ王国初期の錬金技術の粋を極め、錬金術の始祖とも言われる宗匠ユマテルが造りあげた奇跡の建造物。
 おそらくはキュレクスの助力もあって作り上げたのであろうそれは、時渡りのチカラを貯めつづけ、いざという時にエテーネ王家の者は時見のカギを利用して発動し、強力な時渡りのチカラ、すなわち時変えのチカラを発動できる。さらに、究極的には運命改変ともいうべき『因果律操作』までが、前提条件がそろえば可能となる。
(なるほどな、強力な時渡りのチカラを溜めに溜めた時見の箱キュロノスは、最終的に『時元神』をなのったという。確かに、創造神ルティアナの創生のチカラにも比肩する巨大なチカラといえる。かつては冥王や大魔王すらも、どこからかの情報かはわからぬが、時渡りのチカラをおそれて『盟友』の故郷エテーネの村を滅ぼしたとも聞く。
「……お前は、どうするつもりなんだ」
 ルシェンダの問いかけに、リーネはこたえる。
「まあ、明日の皆さんの出方次第かなぁ。特にメレアーデ姫の」
 そのように答え、その後は沈黙がおりた。
(……)
 黙ったまま、ユマテル通りを一町ほど二人は歩いた。
 ルシェンダは、ふいに軽くリーネの肩をつかもうとするが、リーネはひょい、と避けて少し遠ざかる。
「ウデがにぶったんじゃないの?私のような一介のスーパースターにかわされるなんてさ」
 ルシェンダはバツが悪くそのつかもうとした手をそのままにして、本当にしたかった問いをリーネに云う。
「……なあ、六〇年前に、なにがあった?」
 リーネはそのルシェンダの問いには答えずに、クックッと笑いを噛み殺しながらいう。
「……会ったらさ。言おうと思ってたんだけどさあ、なぁにあれ?マダム・フェリシアですって?あいっかわらず、なんというか、ムッツリよね、あんたってばさ。笑っちゃったよ。あのお店の子たちに、昔のあんたのバンカラな写真を見せてあげたいわね」
 そういってリーネは向こうにかけていく。
「バーイ、また明日」
 手をふって、軽やかに去っていった。
 ルシェンダは、つかもうとした手のひらを見つめて
「……やっぱりテロ行為の相談だったじゃないか」
 と、ひとりつぶやいたのだった。

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